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手作りビール挑戦記 -Part 5- 取り出された麦汁は、約100℃で数十分間、煮沸消毒される。その時に同時に行なう重要な作業が、ホップからの成分抽出作業である。ホップを投入し、同時に煮ることで、ビールに目的の苦味や風味を付けるのである。(写真12)
ちなみに、ホップとは、フルムス・ルプルスという学名をもつ蔓性の多年生植物で、日本語名ではカラハナ草というらしい。ビールにはホップの"毬花"と呼ばれる花の部分を用いる。この花には、フレーバーとアロマをもたらすホップ精油、そして苦味をもたらすタンニンおよびホップ樹脂が含まれている。 より詳しく言えば、苦味をもたらすのは、アルファ酸と呼ばれるものである。ホップを煮ることによって、ホップ樹脂の中のアルファ酸がイソアルファ酸へと異性化し、苦味となるのである。ちなみに、アルファ酸は、高い温度で、長く煮ることによってのみ、イソアルファ酸になる。だから、麦汁の煮沸と同時にホップを投入する必要があるのである。 ところで、苦味を得るためのイソアルファ酸は、長い時間を煮込む必要があるが、ホップのアロマを得るためには逆に、短い時間しか煮てはならない。これは、ホップ精油とホップ樹脂の性質の違いによるものである。だから、ホップから苦味と香りの両方を得るためには、ホップを段階的に投入する必要がある。まず、煮沸開始とともに投入する。そして、煮沸終了の約5分前にアロマ(香り)目的のためのホップを投入するといった具合だ。 今回、我々は3段階に分けてホップを投入した。ちなみに私の場合でいうと、まず苦味用ホップとして、チヌークと呼ばれるホップを25g入れて20分間煮沸。次に香り付け用にカスケードホップを20g香り付け用に入れて10分間煮沸。最後に、またアロマ用としてカスケードホップを30g入れて5分間煮沸した。こうして苦味と香りの両方を引き出すのである。ちなみに、通常ならこれで終わりであるが、今回、私が醸造するのはインディアペールエールという非常に香りが強いビールである。そこで、私はさらに、ドライホッピング用に生のカスケードホップを100g使用した(写真13)。
ドライホッピングとは、発酵中の麦汁にホップを投入することである。これによって、煮沸して抽出されるホップのアロマに加えて、じんわりとにじみ出てくるアロマが追加されるのである。ホップのアロマは揮発性が高い。だから、わずか5分とはいえ、煮沸して得られるアロマよりも、ドライホッピングのように常温でじっくりと抽出されるアロマの方が香りは高くなるのである。 ところで、こうしたホップの使用グラム数は、どうやって算出されるのか? イソアルファ酸mg/litter=1ビタネスユニット という式を使う。まず、あらかじめ求めたいビタネスユニットを決める。そこで、醸造する麦汁の量から抽出すべきイソアルファ酸の量を決める。ペレットタイプのホップを使用するとホールホップからイソアルファ酸になるのは、約34%だから、これらを逆算することによって、投入すべきホップの量がわかるという仕組みである。ただし、苦味のユニットが高くても、麦汁の糖度が高ければ、実際には苦いと感じなくなってしまう。そのため、初期糖度とビタネスユニットの比率計算も必要になってくる。全体的なバランスを考えながら数値を導き出す必要がある非常に難しい作業なのである。 ちなみにホップにも階級のようなものがあり、素晴らしい香りが抽出されるホップはノーブルホップと呼ばれている。もちろん、ビールのスタイルによって、ノーブルホップを使わないケースもたくさんあるが、ピルスナータイプのような高貴な香りを追及するビールには、こうしたノーブルタイプのホップのみが使用される。というか、逆にヨーロッパでは、ノーブルホップを使用しないとピルスナービールとして認められない。前にもドイツのビール純粋令で触れたが、ヨーロッパではこうした食品に関する品質管理が非常に厳格に行なわれているのである。ついでに言うと、ドイツでいわゆるブラウマイスターになるためには、2年間の業務経験とミュンヘン大学のような醸造学科があるような大学で5年間のコースを修めてはじめて試験資格が与えられ、その試験に合格する必要がある。(だったっけ?ナイトーッチ?)。とにかく、ひとつひとつに厳しい審査があるのだ。 話を元に戻すが、ノーブルホップは、次の4種類しかない。 1.ザーツ 2.ハラタウシュッテルフリュー 3.テトナング・テトナンガー 4.シュパルト・シュパルター これら4つを覚えておくだけで、もうドイツ人との会話はバッチリ。コミュニケーションが大いに促進されるだろう。(うそ) 煮沸が終わると、麦汁を25℃まで一気に冷却し、発酵タンクに移動する。バクテリアなどの混入や酸化を極力避けるためである。麦汁は、タンクからパイプを通り、フィルターを通り抜けてタンクに移される。そして下にはホップの粕などが残る。(写真14)
ふっー。ここまでで私たちの仕事は終わりである。 その後の発酵や瓶詰めは、木内酒造の方で行なってくれるというわけなのだが、ここまでやると全工程やりたいなー、という気持ちになってくる。 誰か金持ちになって、醸造所、ひとつちょうだい。 最後に一つ言っておくと、醸造において最も重要なのは、元気な酵母を使用する、ということだ。酵母がビールのバックボーンとなる味や香りを決定する。モルトの種類やホップは、それを手助けするものである。そして酵母の発育や最終的な味は、水質にも大きく影響を受ける。すべては自然の産物である。しかし、人間の知恵や努力がなければ人間を喜ばすものをつくることはできないのである。 転じて言えば(大きく飛躍するが)、我々は子孫のためではなく、いま生きている我々のために、自然を知り、自然と協力し合うことをしなければ、我々を喜ばすことさえできないのである。 ―――END エピローグ 醸造が終わると、その場にいた皆で宴会となって、蔵にあるビールや酒を飲みまくった。そして帰り道、ナイトーッチは暗がりの中、単線を駆け抜けた。(写真15) 戻る |
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