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ビールの苦味について


 ビールの苦味は基本的にホップによって得られることは周知の事実である。しかし、その度合いはいろいろな条件下で異なってくる。煮沸時間の長短や比重の高低などが良い例であるが、水質によっても大きな違いがあらわれる。今回は、西日本テイスター倶楽部の井上泰明氏(日本地ビール協会認定マスタージャッジ)のご指導によって実験させてもらった結果を報告したい。謝々、井上さん!

 今回の実験は、ビールの苦味がどう水によって変わるかを確かめるためのものである。単に、水に含まれる塩の味覚が及ぼす影響だけで苦味の質が変わるのか、それとも醸造工程で起こる何か別の化学的な作用により、苦味の成分が変化するのかを調べた。今回は特に硫酸塩と炭酸塩にフォーカスを当てている。

 では、まず硫酸塩と炭酸塩について、一般的に言われている事を紹介したい。

硫酸塩について
ホップの苦味をクリーン(爽やか)にし、アロマとフレーバーをうまく引き出す。伝統的なペールエールなど、クリーンな苦味を持つビールに適している。ちなみに、苦味が重々しい時は、硫酸塩が不足していると考えられている。

炭酸塩について
このミネラル分が含んだ醸造水でホップを多量に用いると、渋みをともなった不快な苦味をもたらす。そのため、ホップをあまり使わないビールに適している。荒々しい苦味が見られる場合、炭酸塩が多すぎると考えられる。


●実験1
これは、イソアルファ酸の苦味が塩によって変化することを確認する実験である。

 まず、濃度一定のイソアルファ酸水溶液を8リットル作り、4等分する。これら各2リットルのイソアルファ酸水溶液に塩を加え、次の4通りの液体をつくる。

軟水ドルトムンドバートンミュンヘン
軟水ドルトムンドバートンミュンヘン
イソアルファ酸のみの水溶液gypsum(硫酸カルシウム)0.21gを加えた水溶液gypsum(硫酸カルシウム)0.79gを加えた水溶液chalk(炭酸水素カルシウム)0.19gを加えた水溶液
硬度25の軟水にイソアルファ酸を入れただけ。舌の両脇に若干の渋みを感じる程度。舌全体にかすかな苦味と渋みが拡がる。舌の奥では明らかな苦味を感じる。ドルトムンドよりも苦味と渋みが強く、舌全体に拡がる。後味で苦味がずっと残るようになる。濁っている。見た目よりは苦味はない。が、苦味と言うよりイヤな渋みやピリピリする感じが口の中に拡がる。


結論 硫酸カルシウムを加えると苦さが増加していく。また、炭酸カルシウムを加えると苦味の質が変わる。ざらついた荒々しい苦さになる。(そういうことにしておこう)


●実験2
20リットルの軟水に以下の処理をし、これらの水を用いてマッシング→発酵→ボトリングまでを行なう。これらのビールは、西日本テイスター倶楽部が醸造したものをお分けしていただいた。

軟水バートンミュンヘン
そのまま使用gypsum(硫酸カルシウム)7.9gを加えるchalk(炭酸水素カルシウム)1.9gを加える
ホップの香りが一番引き立っている。苦味もしっかり協調されている。純粋にホップのイソアルファ酸が抽出された感じ。きめ細やかな泡が非常に良く立つ。ホップアロマは、奥まった感じでまったく立ち上ってこない。炭酸塩を含んだビールにはない、ソーピィな香りも感じられる。苦味はマイルドな感じ。ボディは炭酸塩より、薄く感じる。泡のきめが荒く、泡立ちも非常に悪い。泡持ちもしない。ビールらしい落ちついた香りはする。フレーバー自体が荒々しく感じられる。苦味の質は悪い。舌が痺れるようでもある。妙な苦味が後口にずっと残る。


結論 硫酸カルシウムを加えた水で作ったビールは、ドライで、それほど苦くはない。炭酸カルシウムを加えた場合は、実験1と同様に苦味の質が悪くなる。

全体の実験結果
イソアルファ酸と硫酸塩の組み合わせでは、硫酸塩の濃度に比例して苦味も増加する傾向にある。しかし、この水を実際のビール醸造に使用した場合は、苦味は弱くなりドライ感が増す。つまりクリーンな苦味を持つビールを醸造するには、硫酸塩が必要だと考えられていたが、実際には硫酸塩だけではなく他になにか別な要素の働きが必要だったということだ。前述の井上氏は何が原因かは特定してはいないが「マッシング工程の化学反応により、pHが変化します。また、水溶液中に含まれるイオンやpHにより、ポリフェノール、タンニン、イソアルファ酸などの抽出量も異なります。イーストの活性化、発酵後の分離も大きく変わります」と語っている。そして最後に、炭酸カルシウムは通常のケースでも醸造した場合でも、つねに苦味の質を悪くする。

 最後に、ページ冒頭部分で述べたホップの苦味レベル(イソアルファ酸抽出量)に関して一般的に言われていることを記しておく。

1. 麦汁の比重
麦汁の比重が高いと、アルファ酸はイソアルファ酸になりにくいという性質を持っている。アルコール度数の高いビールを作ろうとすると、初期比重が自動的に高くなるため、ホップの苦味成分を引き出すのが大変になるのだ。たとえば、インディアペールエールを作るとするならば、通常よりもホップ投入量を多くしなければならない。

2. ホップの煮沸時間
アルファ酸は、高い温度で長く煮沸することで、イソアルファ酸になる。煮沸の温度が低いとイソアルファ酸になりにくい。約100℃近くで、殺菌も兼ねて1時間近く煮沸する必要がある。ちなみにホップに含まれるホップ精油はアロマをもたらすが、揮発性が高いため、1時間も煮沸すると香りがすべて飛んでしまう。ホップからアロマを引き出すためには、煮沸数分前にホップを投入する必要がある。このように、段階的にホップを投入することで、目的の苦味や香りをつけることができる。

3. ホップのアルファ酸含有量
これは当然であるが、もともとホップがもっているアルファ酸の量が少なければ、イソアルファ酸に変わる量も少ないということである。平均的にホールホップの約28%がイソアルファ酸に変化すると言われている。しかし、ホップの出来不出来は毎年変わる。大手ビールでは一定の苦味やアロマ・フレーバーをつけるため、多くの品種をブレンドすることで、ホップの出来不出来をカバーしているということだ。株で損をしないようにポートフォリオで買うのと同じであろうか。

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