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魯山人の料理王国・ビール編


 かの有名な魯山人の語録をまとめた『魯山人の料理王国(文化出版局)』にドイツビールに言及したページがあるのを発見したのでここに紹介しよう。

ビール好きの私、相変わらず毎日ビールを飲んでいますが、日本を離れて一番うまかったのは、ニューヨークのロシア料理店で出された「チュボルク」というデンマークのビールでした。このビールはコクがあって、日本のどのビールよりもうまいのはもちろん、アメリカ、イギリス、ドイツ、チェッコスロバキヤ、フランスのビールよりもうまい。アメリカのシュリッツというビールも、日本のキリンよりうまい。

アメリカに来ている日本のビールは、缶詰のアメリカビール程度にまずい。ここにおいて、ビールもまた新鮮を尊ぶことを知りました。アメリカで飲んだドイツビールは、評判ほど、うまくありませんでした。

これは、長い道中、船に揺れられ、汽車に揺られて来るせいで、この長い間に大事なものが抜けてしまうのではないかと思います。「ビールは大壜より小壜の方がうまい」と終始言っていましたが、こちらに来て、いよいよ私のこの考え方が正しいことを確認しました。日本を一歩踏み出すと、どこの国でも全部小壜ばかりです。日本も一日も早く小壜主義にならなければ嘘だと思います。

5月7日パリ着。フランスのビールはとりわけまずい。これはフランスに良水がないせいでしょう。チェッコスロバキヤのビールは、ちょいと中将湯のようなにおいと味を持っています。ドイツのビールは、ここでも評判ほどうまくありません。この程度のものなら、何もわざわざビールのためにドイツへ行くまでもないと目下、思案最中です。


 嗅覚・味覚に優れた魯山人の意見はさまざまな面において的確だと言える。しかし、一応ドイツビールの名誉のために言っておくと:

 魯山人はドイツビールとひとくくりに言っているが、ドイツビールには『アルト』『ケルシュ』『ヴァイツェン』『ベルリーナ』『ドルトムンド』『ボック』などさまざまな種類のビールがある。

 当時はビールについての体系だった研究が世界的にもなされていなかったし、日本で飲めるビールと言えばピルスナーしかなかったであろう。

 また日本では最初のビール醸造を手伝ったのがドイツ人であるせいか、ビールと言えばドイツという風潮がある。

 こうした状況の中で、魯山人はドイツビールは評判ほどうまくない、といっても一概にそれを信用することはできない。

 それにしても、日本のピルスナービールはチェコのビールを模倣していると言われており、それはクリーンな味だというイメージがあるが、魯山人はチェコビールを『中将湯のようなにおいと味を持っている』と書いてある。

 私は『中将湯』のにおいと味がどのようなものかわからないが、ヨーロッパを訪れてピルスナービールを飲んだら、やはりバターやちょっとした漢方のようなにおいと味がした。ピルスナービールは数種類飲んだが全部が全部同じ味であった。魯山人のころからこのようなにおいと味がしていたということを知って、私は以前から思っていた『ヨーロッパ人はこのような味のビールが好きなのだ』という仮説がますます正しいものに思えて来た。

●チュボルクビールについて

tuborg オランダにある国際的な醸造会社、ツボルグ(原語ではトゥーボイと発音するらしい)によって造られているビールだと思われる。香りは全体的に低いが、ラガービールなのにバナナのようなフルーティな香りが感じられる。また、バターのような厚みある感じもある。苦味のレベルは低く、フレッシュな味わい。そして水のように消える後口。―――END



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