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貝の専門店


 荻窪のタウンセブン地下1階に「貝新」という貝の専門店がある。いや、あったというべきか。

 アサリやシジミはもちろん、ムール貝やタイラ貝、ツブ貝、本ミル、赤貝など高級な貝も売っている。さらにアナゴの開きやキス、メゴチなど天ぷら用のネタもあり、私としては非常に重宝していたお店だった。みそ汁、ムール貝のランビックビール蒸し、ツブ貝のおでん、アナゴの煮付けなど、いろいろな料理を作ったのが思い出される。

 昨日、久々に「貝新」にでかけてみると、店が閉じられているではないか。前の豆腐屋さんに話しを聞くと、完全な店じまいだそうだ。

「え?だって、お店に二代目がいたじゃないですか」
「いや、あの若い子は、雇われ社員だったそうですよ」
「あぁ、そうだったんですか」
「息子さんもいたんだけど、継ぐのは嫌だったみたい」

 そうだよな。今どき、マグロなら儲かるかもしれないけど、貝の専門店なんて、誰も継ぎたくないよな。サラリーマンの方が気楽に暮らせるし、金を儲けるならマネーゲームだよな。貝の専門店なんて人生、自らわざわざ選択しないよね。

 こんなことを言ってる私自身だって、たまにしか買いに行かなかったじゃぁないか。普段から家で料理を作る慣習がなくなっている証拠である。

 ちなみにタウンセブンの地下1階には、貝新の他、魚屋、漬け物屋、乾物屋、佃煮屋、八百屋などが入っている。戦後の昭和21年、荻窪で闇市がはじまったのだが、そこで開いていたお店のほとんどがタウンセブンに入ったという。貝新も闇市がはじまりだったのだろうか。今となってはわからないが、確かなことは、これでひとつの歴史が終焉したことである。

 またひとつ、昭和の日本がなくなった。

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bottan
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