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三国の越前カニ


 カニは、風が当たっただけで味が落ちるという。だからカニは現地で食えと言われているらしい。
 要は、東京で食べることのできるカニは、風味が落ちているので本当の味ではないということなのだ。そこまで言われちゃ、行かなきゃあるまい!というか、一度でいいからそういう日本海のズワイカニを食べてみたいと思っていた。だからカニは今回の旅行で一番楽しみにしていた食材のひとつであった。
 ズワイカニは、カニの王様と言われており、採れる地方によって、松葉カニ、越前カニ、間人(たいざ)カニ、津居山カニなど異なった名称で呼ばれている。その中で私が選んだのは、三国で食べる黄色いタグのついた最高の越前カニだ。越前カニであれば、有名な「こばせ」の開高丼にするか、「魚河岸三代目」で紹介されていた「かわき」にするか迷ったが、「こばせ」は車がなければ行くのが難しかったのと、「かわき」が主張するカニの正しい食べ方というものをぜひ試してみたかったので、今回は「かわき」を選択することにした。
 JR福井駅から、えちぜん鉄道三国芦原線に乗って終点の三国港駅へ。そして東尋坊を観光し、夜は「かわき」でカニざんまい。う〜ん、贅沢だ。

えちぜん鉄道三国芦原線
えちぜん鉄道三国芦原線。単線で味があります。


かわき
かわき。外までカニの茹でたにおいが漂っていました。


かわきの個室
この日は、平日だったし、大雪の影響もあったせいか、あまりお客さんがいらっしゃらなかったようで、私一人のためにこんな個室を用意してくれました(感激!)。
カニが茹で上がるまでに、前菜として、「火取り細芽とメカブ」「カレイの肝の煮付け」「甘エビの刺身」「ひれ黒カレイの汐汁」を出していただいた。

最初の細芽(ほそめ)を焙ったものから感動した。細芽とは、たぶん海苔の細芽部分だけを摘んで乾燥させたもの(あんま説明になってねーな)だと思う。明るい緑色の針葉樹みたいな葉っぱをたくさん並べて乾燥させていて、その手法自体は海苔なのだが、一枚の海苔というにはスカスカで向こうが透けて見える状態だし、色もぜんぜん違うので最初海苔だとは思わなかった。それを炭火で軽く焙ったものをいただいたのだが、それが普通の海苔よりも海苔らしい。絵に描いたような海苔の香りがするのだ。海苔が海苔らしいとは意味不明かもしれないが、こんな潮の香りのする海苔には出会ったことがない。あまりの香ばしさと旨さに、口に入れた瞬間、眼がカッ!と見開いた。海苔の真髄に出会った気がした。

甘エビ(卵付き)の刺身は、ミカンを食べて皮だけ出すような感じで、殻ごと口の中に入れて、身と卵だけ食べて殻を出すというやり方を教わった。身と殻の間にある旨味も全部一緒に味わうのである。そこが眼目である。その他、カレイ肝も汐汁も最高に美味しかった。

肴を食べ終わる頃、まず雌のセイコカニが茹で上がってきた。ミソと内子を交ぜて食べ、外子はそのままパリポリ食べる。肩の身(足の付け根部分)は、ミソがついたところを口の中にいれて、ガブガブと噛む(噛み切るのではなく、前歯で身を掻き出す感じ)。そして汁と身を一緒に食べる。これを三国では「しがむ」というらしい。足の身は、前歯で殻ごとバリバリと噛んで身と汁を吸いながら食べる。甘エビもそうだが、とにかく殻ごと食べることですべての旨味を食べつくすのがポイントである。いちいち殻を割って食べたりしてたら、美味しい汁がこぼれてしまうのだ。それでは本当の美味しさを味わうことができない。ちなみにこの食べ方だと、前歯が丈夫な人しか食べられない。入れ歯では無理だろう。女将さんにそう問いかけると「その通り。若いうちしか食べられない」との答えが返ってきた。しかし、歯は丈夫でも若いうちは金がない。食べられる人が食べられない。食べられない人が食べられる。う〜ん、この世の矛盾である。


建物
ついに登場した18年ものの雄の越前カニ。大雪と時化で漁獲量が異常に少なく、値段高騰中(一匹ン万円)の越前カニ!清水の舞台から飛び下りるほどの覚悟でお願いした貴重な越前カニ。
女将さんが手際良く、カニを解体していく。解体が終わると、まず甲羅にたまった汁を3分2ほど飲む。う〜ん、素晴らしく旨い。ちなみに写真の中央に見える白いものがあればあるほど、良いカニということになるらしい。
残った甲羅の汁は、後ほど酒まぜて甲羅酒になる。足の付け根の身を、雌の時と同じようにシガム。足の身は、身は出さない状態の時に殻ごと口にくわえて身をトコロテン方式のように押し出して口の中に入れる。説明が難しいが、要は茹でたカニのエキスが殻の中にたくさん存在するので、それを一切こぼさずに身と一緒に食べるということなのだ。そのための食べ方として、このトコロテン方式は理想形だといえるだろう。身とともに、カニのエキスもどばっと口の中に入ってくる。殻を割って身を取り出そうとすると、このエキスがどうしてもこぼれてしまう。カニの足を焼いても汁はこぼれる。ちまちま身をほじくっても汁はこぼれるし、どんどんエキスが冷めていく。冷めると風味が一気に落ちて行く。だからこれは正しい食べ方ではない。カニは丸ごと茹でて、エキスを、熱いうちに余すところなく吸い付くす、というのが最高の食べ方なのである。ほんの数分が勝負なのだ。カニを食うとはそれほど大変なことであったのだ。
かわきの越前カニは、確かに今まで味わったことのないカニであった。築地でかなり良いカニを買って食べたことがあるが、やはりカニに風味があった。しかしながら、カニの風味だと思っていたのは、実は風味ではなく死臭であったのだ。本当に活きの良い新鮮なカニの身は無味無臭である(ミソには香りがある)。無味無臭の旨さである。その奥に深い味わいの甘さと旨さがあるのだ。これはトラフグの旨さに通じるものがある。これまで食ってたカニはカニじゃねーっ!と思った。そしてこれは現地でなければ味わえないものだろう。最後に、カニの茹で汁を使ったカニ雑炊を食べる。これは別腹でイケる。う〜ん、感動しました。
しかし、こんな話しをしたらいけないのかもしれないが、日本海のカニが本当に旨くなるのは、1月中旬からだという。脱皮をした後のカニの身がどんどん詰まってくるからなのだそうだ。今度はその季節にも行ってみたい(誰かお金だして)。


建物
満腹や 越前ガニが 夢の跡


第五日目の北陸散策の話しに行く




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