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一万円カレーを食す!



●ア、アワビの肝がないっ!

 食べ進んでいくうちに、問題が生じてきた。アワビはまだいいのだが、伊勢海老の切り身が大きいので、伊勢海老とカレーとご飯を一緒に食べ、三味一体を感じることができない。これは残念なことだ。そして伊勢海老のミソをちまちまとほじくりながら食べていると、もともと香り付けのためだけにソテーされているので、すぐに冷めてきてしまったのだ。

 日本的カレーの醍醐味は、アツアツの具材とルーとご飯を、一緒にガツガツ食べることではないか。そういう一体化を体感するところに楽しさがあるはずだ。日本式のカレーライスとは、つまるところ丼ご飯の派生商品であるのかもしれない。それに対し、このカレーは、伊勢海老、アワビ、ニンジン&ジャガイモ、カレー、ご飯がバラバラになってしまっているので、カレーディッシュとでも呼ぶべきモノだろう。もちろん、レストランのカレーとしては、単なるカレーライスとは違う立ち位置にあるのかもしれないが、そういう野趣溢れる部分を残しておいた方がいいのではないか、と思ったのだった。

 カレーの残りが半分を切ったところで、ウェイトレスさんに新しい飲み物を勧められる。二人とも、「カレーに合う本日のグラスワイン(赤)」をオーダーした。サーブされたのは、銘柄は忘れたが、ニュージーランドのピノノワールだった。カレーに合う飲み物は数少ないと思っているが、出してもらったワインはお互いを邪魔しないと感じた。きっと、このカレーがそれほどスパイシーではないからだと思われる。油脂で舌への刺激が和らいでいるのだ。なるほど、カレーでもこういう取り合わせなら、合うワインが見つかるのかと、自分の不勉強を恥じたのであった。

 当初、お腹が一杯になるかどうか、我々を不安にさせたご飯の量の問題も、ウェイトレスさんがおかわりを運んで来てくれたことによって解決された。満腹満腹。満足満足。食べ終わり、椅子に寄り掛かってお腹をさすっていると、シャーベットが運ばれて来た。わーい、デザートだ〜と思った瞬間、ウェイターさんが「アワビの肝を落としてしまったので、サービスです」と言う。

 不意をつかれて、私は「あ、そうなの?」とだけ答えて、シャーベットを受け入れてしまったが、ムムッ、そういえば私のところに、アワビの肝は入っていなかった。まったく気がつかなかった。しかし、わしさんは肝を落としたところを目撃していたので、それに対してどういうケアがなされるのか、期待を込めて待っていたそうなのだった。その答えが食後のデザートだったのだが、店側は、カレーをサーブする前に、肝が落ちたことによって商品が不完全なものになっていると知っているワケだ。にもかかわらず、サーブする時に我々に告げることもせず、食べ終わってしまった後、つまりもう絶対に後戻りのできない状態で告知することを選んだ。確かに食事前の空腹時に告知したら、「ア、アワビの肝がないだと〜っ?!絶対に付けてくれ!」と多くの客にゴネられそうだ。そうなったら、アワビをもう一匹使わなければならないから大きな損失となってしまうだろう。しかし、これが常連の重役さん相手だったらどうだったのか。あるいは縦縞のスーツにサングラスをかけているような職業の方だったらどういう態度を取ったのか。一見(いちげん)の若僧客ごときは、「食い終わった頃を見計らって(満腹になれば文句も言わねーだろ)、デザートでもやっておけ」という考えでないことを祈りたい。そう、そうだよ。資生堂パーラーが、その程度のレベルのはずがない・・・。

 シャーベットを食べつつ、「いや、やっぱりアワビの肝はシャーベットでは代えられないよなぁ」とつぶやいた(カレーに合うかわかんないけど)。

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