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江戸前の絶滅種


 江戸前。にぎり寿司の話しになると必ず出てくる言葉だ。江戸前=江戸の前の海の新鮮な魚介類を握って、江戸前寿司は発展していったという、魚好きには心踊るようなストーリーだ。しかし、江戸前が、現在の東京湾のどこからどこまでを指すのか。深川の前あたりという説から富津-浦賀あたりの広範囲まで、はたまた江戸時代以前に江戸前島という州があったからなど、いろいろと諸説があるようだ。今となってはハッキリさせようもないが、江戸前についてハッキリしていることが、私の知る限り(というか母親に聞いた話しであるが)2つある。

 まず「もう東京湾には綺麗な青い色をしたアサリはいなくなった」ということ。そして「昔のような素晴らしい香りの海苔はなくなった」ということである。

 確かに青い色をしたアサリなんて見たことがない。黒っぽいの。茶色いの。そんなものばかりだ。それに青っぽい貝なんて、少し気持ちが悪い。

 海苔の香り。昔はどれほどのものであったのだろうか。香りというのは、写真や本などで客観的物証を持って伝えることができない。だから母親本人もあいまいであると前置きしつつも、母親が小学生の時(昭和24年〜30年)、「海苔漁師の子供が自分の海苔弁当の蓋を開くと、教室中になんとも言えない素晴らしい潮の香りが広がった。今では、あれほどの香りの海苔はない」という。確かに天日干しの海苔を買ってきても、香りが良いとは思うが、部屋一杯に広がるというほどではない。

 真偽を確かめるべく、浦安郷土博物館を訪れた。ここは、東京湾ではすでに絶滅し、日本全国でも絶滅寸前になってしまったアオギスを復活させようと、いろいろな活動をしている博物館である。さらに、実際に漁師として働いていた多くの浦安市民がボランティアで働いているという。もしかすると、そうした当時を知るオジさんに出会えるのではないかと思ったのである。

 果たして、私の思惑は見事的中した。70過ぎの、2人の漁師さんらしき人にお聞きすることができた(軽い立ち話だけど)。

 「昔、昭和20年代頃、東京湾のアサリは、青かったって本当ですか?」
 オジさん A「そう、昔は綺麗な青色だったよ。砂が違うんだ、砂が。今は真っ黒い砂しかねーもの。アサリは砂の色を反映するんだよ。もう日本全国どこ行ったって、昔の東京湾のような綺麗な浜なんてねーべよ」
 オジさん B「今でも、三番瀬のごく一部で採れるかもしんねーよ。けど、昔のような感じじゃねーな。昔は、固形石鹸だったからよ。自然に浄化できたけれど、今の洗剤はダメだ。あんなの使ってちゃ」

 「昔の海苔は香りがぜんぜん違ったそうですけど」
 オジさん A「昔の海苔はよぉ、種類が違うんだよ。今は養殖で育てやすい別な品種の海苔になっちまったからなぁ。似てんだけどよ、全然違うんだよ、柔らかさとかよ。今の海苔は、どっちかつぅとワカメみたいな感じよ。まぁ、ワカメじゃねーんだけど、そんな感じなんだよ。硬いんだ。あと、昔は全部、手で摘んで、じっくり天日で干したけどよ。今は機械で30分で乾かしちまうべ。そういうのもあんじゃねぇのかなぁ」
 オジさん B「あんたのお母さんが食べた昔の海苔は、もう二度とねぇよ」

 私は、二人の言葉を聞いて、思わず泣きそうになってしまった。母親の言っていることは確かに事実のようだ。ここに証人が二人もいた。しかし、それは江戸前という、一見、華やかな言葉の裏に埋没した、二度と戻らぬ哀しい歴史の話しであった。 浦安郷土博物館さん、アサリと海苔の復活事業もよろしくお願いします。

浦安郷土博物館

浦安郷土博物館が復元した、昭和27年ころの浦安の町。ここを見る前、「復元したといっても、どうせ模型だろう?」と思っていたのだが、行ってビックリ、見てビックリ。市の指定文化財になっている実際の家を何軒か持ってきて、本当に小さな町角を再現しているのだ。。しかも、一部の道は、アサリやハマグリの貝殻がたくさん割れていて、歩くとジャリジャリと小気味良い音がする。私が子供の頃に訪れた、母の実家の港町と同じだぁと少し感動してしまった。ちなみに船宿の奥にある建物は、大正15年(1926年)に建てられたタバコ屋さん。手前に浮かんでいる船は、海苔採り用の「ベカ舟」。漁業の最盛期には、千数百艘のベカ舟があったらしいが、今では舟もほぼ絶滅。同博物館では、こうした伝統的な舟大工技術の保存にも力を入れているという。


別アングル

別アングル。船宿の向こうは、文化財になっている漁師の家。明治後期ごろの建築らしい。


天ぷら屋

浦安堀江フラワー通りに実在した天ぷら屋を再現した建物。


エビス

天ぷら屋には当時のモノと思われるエビスビールまで・・・。



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