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究極的、酒の肴


 酒飲みの一部には、日本酒にもっとも合う肴は、塩だと言い切る人がいる。肉や魚にソースをかけて食べる西洋の足し算の調理法に対して、日本食は引き算の料理と言われている。いかに余分なものを削って、素材の旨さを最大限に引き出すか。日本食はそこに心血を注いでいるのだが、肴として最大の威力を発揮するために、削りに削っていったら塩化ナトリウムだけになってしまったというところだろうか。

 確かに日本酒に塩という組み合わせはなかなか素晴らしい。自然海塩はもちろん、焼塩や藻塩なんかも合うようだ。しかしながら、これらの塩は、塩化ナトリウム100%ではない。塩の売買が専売公社によって独占されていた時代、我々日本人は塩化ナトリウム99%の塩しか食することができなかった。今は、マグネシウムやカルシウムなど、さまざまなミネラルが含まれたバラエティに富んだ塩を味わうことができる。こういう、精製塩にとっては不純物とされる要素をいかにバランス良く残すか、ということが塩の旨さを決めるようだ。料理の味付けを左右する塩自身にも、塩梅が重要なのである(たぶん)。

 さて、私も塩の旨さは認めるけれど、肴としては少々味けがないように思う。(もちろん作るのには大変な手間がかかるが)なんの手も加えられていない素材を肴と言い切ってしまってよいのかどうか。引き算が前提にあったとしても、一手間かけるというのも日本料理の素晴らしさだろう。

 というわけで、私なりの究極的な酒の肴を紹介しよう。

 それは、中トロを付けて食べた後の濃口醤油に、皮も一緒にすりおろして粗いツブツブの混じったワサビをちょっとつけて食べるというもの。刺身じゃ野暮ったすぎるし、醤油だけではそのまんますぎて肴になってない。けれど、中トロの脂の風味と醤油とワサビが混じり合うと、肴として、ものすごい威力を発揮するようになるのだ。

 ここで注意すべきことは、ワサビを醤油に溶かすのではなく、ある程度の塊を箸でつかみ、醤油にワサビが溶け出ないように、ちょこっと付けるだけに留まるということだ。そしてワサビは、皮を剥いてすりおろした綺麗な緑色のワサビでも良いけれど、できれば皮も一緒にすりおろした方が旨い。もちろん醤油も二夏寝かせた本物の濃口を使うことである。

 飲み屋に入って、多くの人はまず刺身を食べるだろう。刺身を食べた後、たいていの場合、ワサビが残ってしまう。だから、余り物のワサビと食べ終わった後の残りモノを使って、お金のかからない、しかし最高のツマミが自分で作れるというワケである。もちろん刺身を食べて、少しお腹が落ち着いて、さて次の飲み物と肴は何にしようかと一思案する時の、ちょっとした時間稼ぎにもなる。

 粉ワサビしか使ってない安い居酒屋なんかだと、刺身を食べ終わると、店員さんはすぐに自動的にお皿を片付けてしまう。もちろんそういうところのワサビじゃ、この酒の肴は作れないのでお皿をさげてもらってかまわないのだけれど、そういう態度はなんか機械的で寂しい感じがする。本ワサビやカツラ剥きして切った大根のケンを出すような、ちゃんとした料理屋さんだと、ツマを食べるまでお皿を下げない。あるいは、客が手を付けないようだと「よろしいですか?」と、一回ちゃんと聞いてくれる。そういうお店に行くことである。

 ちなみに、最初に中トロを食べ終わった後の醤油と書いたが、中トロに限らず、ブリやカンパチ、ヒラマサなど、ある程度、脂の乗った魚であれば問題ない。大トロやハマチ(東京で言うところの)、鮭なんかは脂が多すぎるし、アジやサバなどの青魚の脂はちょっと魚臭い感じがするので避けた方がよいだろう。

 自分一人でやっているなら良いが、こういうところに書いてちゃんとした文面にしてみると、う〜ん・・・なんとセコイ話しなんだろうと汗顔の至りである。


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bottan
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